第36回 卒後研修会(オンライン)を開催しました

100年の計を見据えた歯科医療・歯科医学を考える
-ビジョンを共有してクリニックの底力をあげよう-

 2021年10月31日に第36回東北大学歯学部同窓会卒後研修会が開催されました。
 昨年の第35回卒後研修会は新型コロナウイルスの影響により開催中止となり同窓会報への抄録の紹介に留まりましたが、本年度は卒後研修会初のweb開催とし、申込み方法はwebから、広告はFacebook、見逃し配信もYouTube で行うという企画全体のDX化を推進致しました。
 上記のような取り組みのもと、本年度は前年度までのメインテーマから一新し「100年の計を見据えた歯科医療・歯科医学を考える-ビジョンを共有してクリニックの底力をあげよう-」というテーマのもとWHITECROSS 株式会社代表取締役赤司征大先生(38回生)と弁護士法人小畑法律事務所代表弁護士小畑真先生に御講演を行っていただきました。
 午前の講師を務められた赤司先生からは「歯科医学×経営学」歯科医療の未来予想図〜5年後の歯科医療の姿〜とのテーマでのご講演をいただきました。ご講演では、視点をマクロからミクロへと移し、世界各国と日本の間での人口および経済の比較という観点から現在の日本の状況と日本における歯科医療を考察され、そこから歯科医療の未来予想図を導き出すという構成でした。その内容を一部、お伝え致しますと、SDGsやESG、テクノロジーの発展など目まぐるしく変化する世界情勢、また中国の一帯一路構想による日本の立ち位置、新型コロナウイルスの影響、日本の医療費が40兆円を超えまだまだ増大している状況などについて解説されるなかで、2021年6月18日に発表された「経済財政運営と改革の基本方針2021」に生涯を通じた切れ目のない歯科健診などが盛り込まれたことに触れられるなど、我々歯科医療従事者が抑えておくべき最新の社会情勢や医療情報が多数盛り込まれておりました。さらに多職種連携の必要性が言われているなか医科・介護から求められる歯科医療は口腔疾患の全身への影響排除、栄養補給のための最低限の機能回復、口腔衛生管理、摂食機能療法、フレイル防止という認識であることを我々歯科医療従事者は持つ必要があると述べられました。
 午後の小畑先生からは「歯科医学×法学」クリニックマネジメントの未来予想図〜よりよい医療を提供し続けるための法的視点〜とのテーマのご講演をいただきました。ご講演では、最初に歯科医師が歯科治療に際して知っておかなければならない基本事項として、我々が行う治療行為は法律的に準委任契約とされていることを挙げられました。準委任契約は必ず治療の成功を約束するべきものではないが、善管注意義務(医療水準に適う診療を行う義務、説明義務、問診義務、研鑽義務、転送義務、転医指示義務、カルテ開示義務)を果たす必要があるとのことで、個々の義務に対して具体的事例を用いた詳細な解説をいただきました。その他、我々歯科医師が日々の診療や患者対応、スタッフ管理や医院経営等、多くの場面でラブルを回避するために必要となる法律の知識についても平易に解説していただきました。そして、最後にクリニックマネジメントの未来予想図として、診療や医院システムのデジタル化・DX化に言及されました。具体的には①受付②診察券③患者連絡・広告④医療記録⑤説明書・同意書・契約書⑥画像診断⑦印象採得⑧補綴物⑨院内連絡・情報共有・情報管理などの効率化、省力化が行われることになるであろうとのことでした。そして今後、歯科界に巻き起こるであろう大きなパラダイムシフトの中でも、我々歯科医師が歯科医療を行う際に必要となる法的根拠をきちんと押さえていくことは必須であるとの言葉で講演を締めくくられました。
 本年度は120名を超える多数のご参加を賜り大盛況でした。来年の開催につきましては今後の新型コロナウイルスの状況次第ではありますが、従来の対面式とするのか、それとも今回と同様webを用いるのかを決定次第、皆様にお知らせいたしますので、本年同様、多数の皆様に御参加いただきますよう宜しくお願い申し上げます。

講演① 10:00~12:00

「歯科医学×経営学」 歯科医療の未来予想図
~5年後の歯科医療の姿~

赤司先生
赤司征大先生(38回生)
(WHITE CROSS 株式会社代表取締役CEO) 歯科医師/MBA

【抄録】
 予断を許さないものの、この2年間、世界を苦しめた新型コロナウイルスのパンデミックという未曾有の災害も収束の兆しを見せ始めています。その影響から予見されていた未来に向かう速度は加速し、世界は変革を迎えようとしています。社会の随所においてデジタル化が推進され、個人の健康意識、安全/安心への感受性は不可逆的に高まってきました。そこにおいて、日本国は世界に先駆けて人生100年時代を迎えようとしています。“人生100年時代”という言葉を生み出したLondon Business Schoolのリンダ・グラットン女史は、世界的ベストセラー ”Life Shift: Let Go and Live Your Dream”において、「長い人生を有意義に生き抜くための資産の一つがVitalityである」と提言しています。Vitality とは精神的・肉体的に健康であることを意味し、医療従事者にとって馴染みのあるWell-beingに近しい概念です。 

 世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を実現してきた我が国の医療システムもまた、人々のVitality/Well-beingを面として維持していけるシステムへとシフトしようとしています。時を同じくして、口腔と全身の健康の繋がりが注目されるようになりました。医科歯科連携・多職種連携が歯科医療界のキーワードとなり、この秋の衆議院議員総選挙においても「国民皆歯科健診」が自由民主党の公約に盛り込まれました。

 歯科医療そのものが医療全体につながる予防医療として日本社会、そして世界に新しい価値を生み出す時代に入ろうとしています。既存の歯科医療においても、科学としての進歩・蓄積が進み、各診療科における知がますます深みを増していっています。

 講演を通じて、世界や日本社会・経済の動向というマクロな視点から、日常の歯科医院経営というミクロな視点までをつなぎ合わせ、歯科医療の未来予想図を描いていきます。

 当日、皆様とお会いさせていただけますことを心より楽しみにしております。

【著書紹介】
◉ 日本歯科医療への提言- その社会的価値を高めるための成長戦略 -(医歯薬出版)

講演② 12:45~14:45

「歯科医学×法学」 クリニックマネジメントの未来予想図
~よりよい医療を提供し続けるための法的視点~

小畑 真先生
(弁護士法人小畑法律事務所代表弁護士、北海道大学客員教授) 歯科医師

【抄録】
 我が国の社会構造は大きく変化してきていますが,医学・医療も日進月歩で,デジタル化も急速に進んできています。医療のデジタル化は,医療の効率化や質の向上が図られ,医療利用者のみならず,医療提供者にも働き方も含めた大きな恩恵にあずかっています。このような変化は,プラス面ばかりではなく,マイナス面の影響も少なくありません。例えば,近年のスマホ社会に代表される社会の変化によって,ある意味「間違い探し」的な,一部行き過ぎたコンプライアンスへの意識の高まりが顕著に現れてきています。そのため,今までは何の問題にもならなかったことであっても,これまでと同様に法的な視点なくして歯科医業を行なっていくことによって,致命傷を受けてしまったケースも散見されます。さらには,対人トラブルも増加・変容してきている中,コロナ禍による不安の増長によって,発生するトラブルもますます複雑化してきておりますし,歯科医業を行うに際して,法的な視点をもつことは必須となってきています。

 一方で,我が国の人口は2008年をピークに減少の一途を辿っており,ある意味,相対的に「人」に対する価値が高まってきている時代と言えるかもしれません。

 このような時代の中,歯科医業は,対患者,対スタッフのように,個対個の関係性の集まりによって成り立っておりますので,人に対する価値に意識を持ちながら,日進月歩のデジタルテクノロジーとのバランスを図っていく必要がある業種であるといえます。

 時代が大きくシフトチェンジしている現代社会の中,よりよい医療を提供し続けられるために,時代とともに変わるもの,時代によっても変わらないものを踏まえて,法的視点からみたこれからのクリニックマネジメントをお示しできればと思います。

【著書紹介】
◉「事例に学ぶ 歯科法律トラブルの傾向と対策」(日本歯科新聞社)
◉「インプラント治療のトラブル&リカバリー 併発症からクレーム対応まで」共著(デンタルダイヤモンド社)